1 たらい回しにされて・・・(相談~受任まで)
30代の女性。夫とは半年前から別居中。口げんかから発展して暴力を振るわれたことや浮気が発覚したことが別居の原因。当初はお互いに冷静になるための別居だったが,半年経っても変わらないあいてに離婚を決意した。私の所へいらっしゃるまで複数の弁護士に相談したが断られていた。というのも,離婚調停は相手の住所を管轄する裁判所で行うのだが,相手が新幹線を使う距離に住んでいたため嫌がられたようだ。たらい回しにするのはもうお終いにしようと依頼を受けることにした。ただし,実際の労力を考えると赤字はほぼ確定だ
女性の希望は親権と慰謝料。子どもはまだ1歳で別居前から主として監護しているのは依頼者の方だった。そのため親権は全く問題なかったが,不貞をはっきり証明できる資料がなかったのが問題だった。特定の電話番号との頻繁な通話記録など親密さが判る思料はあるのだが,不貞=性交渉。セックスしたことが推認できなければ厳しい。それでも,「黒に近いグレー」には持っていけるかと思い,とにかく請求はしてみることとした。夫には分与できるほどの財産がなかったので,これがとれなければ離婚後の生活も大変である。
2 慰謝料(解決金)だけが争いに(調停~解決まで)
遠方の裁判所で依頼者と調停をする。本人の交通費の負担は馬鹿にならないため,迅速に終わらせる必要があった。調停では慰謝料を除いてスムーズに話が進んだが,提示された解決金(呼び方にはこだわらず解決金名目にした)はこちらの想定より随分下。それでは話にならないため次回に持ち越しとなった。
次回までの間,相手方弁護士と携帯や保険料などの各種支払について協議。法律上は親権者さえ決まれば離婚はできるものの,これまでの生活を完全に清算する以上,そんな簡単にはいかない。児童手当が相手の口座に入金される予定だったため,調停申立書の控えを依頼者に送り,役所で支払先を変更してもらった。養育のためのお金だから,養育している側が受けとるのは当然だ。別居中の方で、子を監護していない親が手当を受けとっているときは受取人変更を検討しよう。
2回目の調停では,相手の浮気に関して,依頼者が心から傷ついたことを婚姻直後からの出来事を交えて主張した。実際の話はとても痛ましいものなので公開されたブログには書けないものの,調停委員の心にも響くものだった。実際,次に我々が部屋に入ったときには,相手方も折れており,前回提示した額の1.5倍近い金額を提示してきた。おそらく,訴訟になればこれ以上取ることは難しかったと思われる。特定の異性と性交渉した証拠まではなかったからだ。もっとも,相手方の経済力から一括払いは出来ず,分割になったが。
それにしても,証拠書類一式は第一回目に相手方にも示しているはずなのだが,なぜ今になって突然態度が変わったのか。ちゃんと見ていないのではと疑念が湧いた。
3 調停を終えて
この方はおそらく遠方での調停を嫌がられ,複数の弁護士に断られて私の所へいらしたが,たらい回し自体本人を傷つけてしまうので,私自身はそういうことは無いようにしたい。また,証拠が不足していても,とにかくやってみることだろう。やらない限り何も取れない以上は。蛇足ながら,シングルで育てていくお母さん方は離婚後も大変だろう。元夫が十分な収入を得ていれば養育費の額も上がるが,今の時代ではあまり期待できない。解決金が取れたのは良かったが,今後の母子の大変さを思うと手放しでは喜べない。