2017.05.19更新

相続放棄の期限と疎遠な親族の問題

亡くなった親族(被相続人)が、プラスの財産よりもマイナスの財産(負債)を多く抱えている場合、なにもしないでいると相続人はマイナスの財産を含め、被相続人の権利義務を一括して受け継ぐことになる(包括承継)。また、多額の負債がない場合であっても、親族と疎遠にしており関わり合いを持ちたくない人もいる。こうした相続によるメリットを享受できない相続人にとって、相続放棄は唯一と言って良い救済措置になる。しかし、相続放棄は、自己のために相続が開始したことを知ったときから3か月以内に行う必要があるところ、被相続人に身内も知らない借金があることも希でなく、3か月以内に財産すべてを把握することは必ずしも容易でない。このような場合は放棄の申述期間の延長を家庭裁判所に認めてもらうことが出来る。

しかし、もともと被相続人と疎遠にしており、相続手続に何ら関わっていない相続人は、敢えて相続放棄という手続を取ろうと考えることもなく、放置してしまっていることが多い。そして、債権者から想定外の請求がきて狼狽する。このような場合は早期に相続放棄を行い、被相続人の負債から解放されなければいけない。

 

判例による救済措置とその要件

上記のとおり、相続放棄の期限は、原則として相続開始を知ったときから3か月以内なのだが、判例上、

①被相続人に全く財産がないと信じ、

②そう信じたことに相当の理由がある場合

には、財産の存在を知ってから3か月以内であれば相続放棄が出来るように救済措置が図られている。

 

①は、プラスもマイナスも含め財産がないと信じた場合である。②は、被相続人とのこれまでの交際状況などから、財産がないと思っていても仕方がないと評価できる事情である。

実際には、上記の判断は緩やかにされている。具体例を示してみたい。

 

解決例

『被相続人の死後20年近く経過してからの相続放棄が認められたケース』

被相続人は20年近く前に他界。相続人は死後すぐに相続開始を知った。被相続人は借地上に建物を建てて家族と住んでおり、相続人も子どもの頃は同じ建物に住んでいた。死後、きょうだいの一人が建物に住み続けていたが、地代を滞納し、土地所有者の代理人弁護士から相続人全員に対して地代の請求と、土地の明け渡しを求める内容証明郵便の通知が届く。相続人は弁護士からの文書の意味がわからず放置していたところ、4か月後に裁判を起こされた。

この件では、弁護士からの通知が届いた時点で、被相続人が建物を所有していたこと、土地の借地権を持っていたことはわかったのではないか、そうすると財産の存在を知ってから3か月以上経過しており相続放棄は認められないのではないかが問題になった。

しかし、結論としては、あっさりと認められている。本件では、相続人も高齢であり、弁護士からの専門用語をちりばめた文書を見てもいまいち状況がわからなかったのは無理もない。事実確認のために動くこともなかったが、それを責められない事情があった。また、中学卒業後、すぐに就職して寮生活を続けたあと自分の過程を築いており、それ以来実家との干渉は年に1回あるかないかで、被相続人の死亡前後も遺産に関する話は出ていなかった。つまり、相続の話し合いとは全く無縁であった。

こうした事情のもとで、財産の存在を知った時点は裁判を起こされた時点であると主張し、相続放棄はあっさりと認められた。このように、例外といってもその判断は甘い。

終わりに

人の死という偶然の事情で多額の負債を負ったり、訴訟をおこされるのは堪ったものではない。債権者から請求が来たが、相続放棄の期間をとっくに過ぎているときでも諦める必要はない。

投稿者: 弁護士石井康晶

2017.02.18更新

親権者指定に関するラディカルな判決

 近時、千葉家裁松戸支部が注目すべき判決をだし、話題になった。夫婦の離婚訴訟で双方が親権を主張、非監護親である夫が親権者となった暁には年間100日の面会交流を提案したところ、同支部はこの提案を評価し、夫を親権者と指定した(松戸判決)。

 控訴審である東京高裁の判断は注目されていたが、一審を破棄し、妻を親権者に指定した。おそらく、高裁の結論は少なからずの法曹が予想していたことだろう。

親権者指定の判断要素

 種々の要素があるが、列挙すると―

・監護の継続性

・従前の主たる監護者

・離婚後の養育環境

・面会交流の許容性

・きょうだい不分離

・母性優先?

などがある(母性優先に?がつくのは、現在でもはっきりこの要素が考慮されているか私には不分明なため)。このうち、重要なのは監護の継続性であり、面会交流の許容性は補充的な要素と位置づけられてきた。松戸の事件は母親が子を連れて別居を開始して以来、何年も経過している事案であったから、従前の考え方をそのまま適用する限り、母親の勝利は決まっていたようなものだった。これに対して松戸判決は、面会交流の許容性を高く評価したのだが、高裁は父母の住所が離れていたため、年間100日の面会交流が子にもたらす負担を考慮し、松戸のように高い評価を与えなかった。子の負担を面会交流の実施に当たって考慮するのは当然であるから、一般論としては高裁の考え方は指示できる。ただ、肝心の子の意見がどうなっているのかがわからないので、この事案においても妥当な判断だったかは即断しかねる。

松戸判決の影響と高裁の判断の是非

 松戸判決は面会交流の許容性を決定だとした点で画期的だったが、調停実務には悪影響も与えたと感じる。この判決以降、調停で「面会交流に協力しないため親権を取れなかった例もある」として強く面会交流の実施を促す調停委員が見られた。異例の判断、それも最高裁でもない家裁の一支部の判決を基準に語るのは牽強付会もいいところで、面会交流を原則実施しようとする彼らの思考停止にほかならないと感じる。弁護士が同席している場合でさえこのような発言が出るのだから、本人だけのときは何を言われているかわかったものではない。以前から、DVを理由として面会交流に消極的な監護親に対し、強引な働きかけがあったことは周知のことと思われるが、松戸判決はこの傾向に拍車をかけかねないものだった。

 かといって、高裁の判断に無条件に賛成することもためらわれる。監護の継続性を重視することは子の連れ去りを助長し、連れ去られた非監護親は打つ手がなくなる。子の引渡、監護者の指定という手続はあるものの、結局のところ現状維持となる可能性が高く、非監護親(男性が多いだろう)は子との断絶に悩むことになる。これまで、違法な連れ去りによって開始した監護は監護実績として考慮しないという考え方も示されてきたが、他方で、主として監護していた妻が子を連れて別居を開始するのは違法ではないともされ、「違法な連れ去り」と言えるケースは限定されている。となれば、多くの場合で連れ去りは適法になり、監護実績として考慮されることから、結局連れ去ったもの勝ちとなる。このような歪な現状は改善されないといけない。

「連れ去ったもの勝ち」を失くすには?

 私見では、連れ去り後の監護は、原則、実績として考慮しないとするほうが良いように思う。DVから逃れるためになど限定的な場合には認めて良いかもしれない(が、そうすると今度はでっちあげDVが頻発するかもしれない)。連れ去り後の監護を既得権として認める限り、連れ去り勝ちの風潮は消えないだろう。松戸判決のように面会交流の許容性を過大視する場合、DV事案等必ずしも面会が適切と言えないケースでどう考えるか苦慮しそうだ。監護の継続性は親権を判断する上で非常にわかりやすい要素で、連れ去り後の監護を評価しない場合、親権者指定は難しい作業になると思われるが、もともと家裁はそうした問題を後見的立場から決することが期待されている。調査官調査を充実化させ、対応できないか。

 ところで、単独親権だからこういう問題が起こる、共同親権なら問題ないという論調も見かけたことがあるが、そう単純な話ではないように思う。親権者指定という争いはなくなるだろうが、結局どちらが監護するかで揉めるのだから、共同親権にしたところで連れ去りはなくならないだろうし、連れ去りを監護実績として考慮する限り非監護親が不利益を受ける状況は変わらないのでないか。

 

 従前の議論に拘る限り、連れ去ったもの勝ちの状況は変わらないだろう。本件は上告中だが、最高裁がどのような判断を下すのか待たれる。

投稿者: 弁護士石井康晶

2017.02.18更新

弁護士に依頼したいが、どうやって選べば良いのだろう? 

 こんな疑問を抱く人は多いらしい。

 先日、弁護士の検索サイトの営業マンから、「弁護士 選び方」のようなワードで検索をかける人が多いと聞いた。弁護士の善し悪しは外部からはわかりにくい。ネットで事務所を検索しても、大抵はおおまかな業務内容や料金を掲載しているだけで、弁護士のキャラクターや能力、実績を測るには足りない。弁護士側がウェブで提供する情報は必ずしも相談者が求める水準には達していないと思われる。しかし、選び方がよくわからないと、とりあえず検索結果の上位に掲載されている事務所や、初回相談無料の事務所、派手に広告を出している事務所を選びがちではないだろうか。せめて弁護士選びの注意点は知っていて損はない。

 そこで本稿では、過去の依頼者の聴き取りやネット相談の結果をもとに、私なりに弁護士選びの注意点を書いてみることにする。あくまで私見であることをお断りしておく。

 専門性・経験

 あなたが依頼しようとしている分野で、著作や講演の実績があれば専門性は担保されている。同じ事務所の弁護士の共著であれば、事務所自体がその分野に強いと言え、より信頼性は高まる。著作のような客観的な成果物がない場合、判断はそれほど簡単ではないが、依頼しようとしている分野と関連のある公職に就いていたり、弁護士会の活動をしていれば、その分野の経験があり、関心も強く持っていると見て良いだろう。こうした情報は、ウェブサイトで確認できることが多いはずだ。それもなければ解決事例として紹介されている案件の分野を見る。分野が偏っていれば、多く紹介されている分野が得意分野だ。

 ところで、タイトルに「専門性」という単語を入れたが、本当に「専ら」その分野だけ扱っているという弁護士は少数だ。特に地方(私が活動している千葉も含めて)では様々な分野を雑多に扱う弁護士が多く、経験数の差はもちろんあれど、言葉通りの意味での「専門」はあまりないのでご注意を。この点は内科、循環器科、小児科…と細分化されている医師とははっきり異なる。したがって、地方都市では「専門」に拘る必要はあまりない。

 そもそも、あなたの抱えている問題が専門性を要する問題なのかも考える必要がある。ときどきネット相談をしていて見るのは、知人に貸した金の回収や、賃料を滞納した借家人に立ち退いて欲しいという相談で、「専門」の弁護士を探している人だ。しかし、こうした案件は誰であれ大差なくやれるし、貸し金回収を文字通り専門にしている弁護士は探す方が難しいだろう。専門は何かを問うより、あなたの問題と同じような案件の経験を問うた方が良い。

 ベテランか、若手か、ということも気になるかも知れない。ベテランは経験豊富故に、見通しを素早く、適切に立てたり、解決の落としどころを適切に探れるだろう。若手は経験で劣るものの、一般的にフットワークが軽く、特に刑事では足を使うため、フットワークの軽さが利点になる。また、知識は文献や裁判例のデータベースで補充できるため、大きな差は付きにくいと思われる。自分が若手だからいうわけではないが、弁護士選びの決定打にはなりにくいと思っている。少なくとも、弁護士の年数より、あなたの抱える問題と関わりのある分野の取扱い経験が重要だ。

2 費用

 あなたに経済的な余裕がなければ、法テラスを使えるかどうかが一つのポイントになる。ポータルサイトでは利用の可否が明示されている場合もある。

 弁護士費用は業務そのものの対価である着手金と、一定の成果を得たときに支払う報酬に大別される(このほか、実費を概算で前払いしたり、遠方に行く場合は日当が必要にある場合もある)。金額は個々の弁護士で異なるため個別に確認する必要がある。ただ、費用は事案毎に労力を加味して決める面があるため、会う前から確定した金額を提示することは難しい場合もある。従って、幅のある金額しか説明されないこともある。ともあれ、幅があっても大体の費用を説明できる弁護士が良い。3 アクセス

 初回相談から解決まで、弁護士の事務所には複数回尋ねる可能性が高い。簡単な連絡は電話やメールで事足りるが、尋問の打ち合わせ、方針の変更に関する説明など、重要な場面では直接会う必要がある。あなたの自宅や職場から通えることが大前提となる。これは当たりまえのことだが、問題は裁判所の管轄が遠方にある場合だ。こういうときは地元の弁護士に依頼して現地に行って貰うか、現地の弁護士に依頼するか二択になりそうだ。地元の弁護士ならアクセスは良い、かわりに交通費、場合によっては日当、宿泊費を払うことになる。現地の弁護士に頼めば打ち合わせの度にあなたが赴く必要があるが、地元の弁護士に依頼するよりおそらく安くなる。時間と財布を考慮して決めることになる。

 ところで、自己破産をする場合に、地方に住んでいながら都心の事務所に依頼するケースがあるが、これは止めた方が良い。自己破産の運用は裁判所毎にカラーがあるため、地元の弁護士に依頼することが必須だ。これはアクセスだけでなく、適切に解決してもらうためにも守った方が良い。

 4 広告

 CMを出している事務所は、巨額の広告費の元手をとるため大量の案件を受任する必要がある。しかし弁護士が1人で抱えられる案件には限りがあるから、大量に処理しようとすれば仕事がおざなりになるか、事務員に実働を任せることになりやすい。私の下へ相談に来た方の中には、こうした事務所に依頼したものの、一度も弁護士と会っていないという方もいた。あなたが依頼しようとしている事務所では、ちゃんと弁護士があなたと面談し、打ち合わせの電話にも弁護士が応対するだろうか。初回相談で弁護士が現れなかったら、そこに依頼するのはやめたほうがいい。 

5 求めるタイプ

 私は、弁護士選びは最後は相性だと思っている。一般的に紛争は解決までそれなりの期間を要するため、弁護士との付き合いもそれなりに及ぶ。最後まで良好な関係でいられるかは、あなたの求めるタイプに合致する弁護士の方が良い。

 あなたが配偶者との生活に疲れ、自分の長年の悩みを理解してくれる弁護士が良いのなら、あなたの話に傾聴するタイプが良い。ただ、これも難しいのだが、弁護士は少なからず「寄り添う」、「共感」といった単語を使うため、ウェブサイトを見ても傾聴してくれるタイプかは判らない。こればかりは会って確かめるほかない。ちなみに、離婚を考える女性のなかには同性の弁護士を好む人が一定数いると思うが、夫が暴力をはたらく人間なら,男性弁護士に依頼するのも一案だ。DV夫は女性蔑視的な考えを持つことが多く、弁護士といえども舐められることがあるからだ。

 企業法務では中堅からベテランの男性弁護士が好まれる傾向にあると、以前ポータルサイトのコンサルタントから聞いたことがある。分野毎の好まれるイメージもあるだろう。

6 説明の仕方・方針の立て方

 これまでのポイントは相談に行く前に調べられることだったり、相性のような漠然としたポイントだったが、相談された案件についてどのような説明をするかは、弁護士の能力と関わるものでもっとも重要なポイントだと考える。

 弁護士の説明や方針が正しいのか、間違いを含んでいるのかは、相談者には判りにくい。だが、腑に落ちないと感じたときは、その懸念は正しいのかも知れない。

 まず、断定的な説明には注意したい。勝算も解決までの期間も、相談者にとって関心が強いのは当たり前だが、はっきり答えるのは難しい。極端な話、裁判沙汰をおそれて書面一本で要求に応じるかも知れないし、最高裁まで争うかも知れない。蓋を開けてみるまでわからないので、幅のある回答しか出来ない。勝算についても、弁護士は勝訴を請け負ってはならないとされているくらい、断定には馴染まない。

 次に方針を立てる上でメリット、デメリット、あるいはあなたの有利な点、不利な点の説明がなされているか。紛争を解決する手段は一つとは限らないが、それぞれの利点、不利な点を理解できるように話したか。以前、私の下に相談に来た方は、すでに弁護士に依頼していたのだが、「良いことしか言わない」ため不安になってセカンドオピニオンを求めてきた。あとになって、「こんなはずじゃなかった」とならないように、自分から尋ねることも必要だろう。

 もし腑に落ちない説明があれば、契約する前にセカンドオピニオンを求めてもいい。今は直接事務所に出向かなくても弁護士の見解を聞くことは出来る。

 

 以上、思いつくままに書いてみたので参考になる情報ではないかもしれないが、弁護士と市民のミスマッチを少しでも埋められれば嬉しい。

 

投稿者: 弁護士石井康晶

2016.10.03更新

離婚に際して決めること

 離婚することでお互い納得したとしても、それだけで終わりというわけには行きません。未成年の子どもがいるなら親権者を決めないといけませんし、ほかにも取り決めるべき事柄はあります。特に協議離婚では、離婚することと親権者だけ決めれば離婚できてしまうため、ほかに取り決めるべき事柄を知らないと棚上げされたままになってしまいます。失敗しないためにも、離婚に際して決めるべき事柄を知っておきましょう。ここに書いてあることを知ってから別れを切り出しても遅くありません。離婚に関連する事柄には―

1 親権

2 養育費

3 面会交流

4 財産分与

5 慰謝料

6 年金分割

 

があります。

 

1 親権者の指定

 未成年の子どもがいるときは、両親のどちらが親権を持つのか決めないと離婚できません。ここで争いがあるときは、調停や裁判で解決するしかありません。

 調停では話し合いの場が持たれるので、親権に納得できなければ調停で解決することは出来ず、裁判で決めることになります。裁判所が判断する際の事情として

 は、

  1 現在までの養育状況(主に誰が監護してきたか、その監護の在り方はどのようなものか)

  2 今後の養育環境の見通し(自分が親権者となったときの監護の環境はどんなものになるか、経済状況は、親族のサポートは等々)

  3 子と親の情緒的結びつき(愛情を持った関係ができているか)

  4 きょうだい不分離(きょうだいがいる場合、なるべく一緒に育てる)

  5 面会交流の許容性(監護していない親と子が会うことを許容できているか)

 などがあります。子が幼いときは、今現在監護している親に問題が無ければ、基本的に引き続きその親を親権者とする方向に働きやすいといえます(継続性の原則)。その意味で1は重要です。

 そのため、別居するときに子を連れ去り、自分の下で育てるということが良く起こってしまいます。連れ去られた側としては、監護権者の指定・子の引渡しを家庭裁判所で早急に求めないと、相手の監護実績という既成事実が積まれかねません。もっとも、連れ去りの違法性を考慮して、連れ去り以後の監護を実績として認めないという考えも近時取られています。しかし、実際に連れ去りが起こったら早急に動くべきことは変わりません。

 両親の経済力も養育環境を考える上で判断要素になりますが、あくまで補充的な要素として考えます。男女の収入格差を考えると、このような判断は妥当でしょう。

 以前は母親優先などと言われていましたが、近時はそのような考えは採られていないと思われます。近時は5 面会交流の許容性が重要なウェイトを占めてきました。離婚しても子が親権を得なかった親と会うことは子の福祉(しあわせ)に適うという考えから、家庭裁判所は面会交流を推進しています。配偶者への反発から面会交流を認めないと、親権の判断で不利になる可能性が生じます。これも補充的な判断要素ですが、最近になって面会交流を許容しない母親ではなく、充実した面会交流を提案していた父親を親権者とした判決がでました。

どうやって裁判所で話し合うの?

 現在の養育状況や、今後の養育方針などについて話をし、子どもが自分の意思を表明できるなら、家裁調査官というスタッフが子本人や親に聴き取りをします。子が15歳以上のときは意見を必ず聴かなくてはなりませんが、まだ小さい子どもですと意見を聴かないこともあります。聴いた場合であっても、子の意見通りに親権者が決まるとも限りません。監護している親への遠慮や葛藤で、本音を言えないと判断されることがあるためです。

 家裁調査官が調査結果を報告書にまとめ提出すると、当事者は記録を閲覧謄写できるようになります。調査官意見は裁判所にも影響するので必ず参照し、反論すべき点は反論するべきです。

親権を得るための準備は?

 養育環境を整えることです。日中働いているなら、保育園・学童保育・実家などのサポートを受けられるか、夜遅くならないうちに帰ってこられるか、休日を一緒に過ごせるか、離婚に伴って転校が必要か、引っ越すにしても同じ学区内は無理か……等々、考えることがあります。あなたが配偶者より経済力で劣っていても、深く心配する必要はありません。特に子が小さい間は、情緒的結びつきの方が大切です。また、養育費や公的扶助で金銭面をカバーすることもある程度可能です。また、近時の面会交流に関する裁判所の考えから、子を会わせることに問題が無ければ柔軟に面会について考えた方が良いでしょう。とはいえ、虐待があるときは勿論、深刻なDVがあってあなたに危険が及ぶとき、子が本心から親を嫌い会うことを望まないときなどは、面会交流の不実施に向けて戦わなければなりません。

 もしあなたが子の連れ去りにあったのなら、速やかに家庭裁判所で監護権者の指定や子の引渡審判を申し立てた方が良いでしょう。

一度決めた親権者は変更できる?

 制度上、親権者の変更は定められています。しかし、ころころ親権者が変わることは子にとっても望ましくないことから、親権者を決めてから事情の変更があったことが必要です。親権者変更では、今の親権者の元では子の福祉に反するといえるような事情が求められ、一般にハードルは高いです。なお、両親の意向で勝手に変えることは出来ません。

2 養育費

 未成熟子の養育のための費用は父母で分担し合います。ですので、親権者が決まったら親権を得なかった側が負担する形で、毎月の養育費を取り決めます。近時は養育費・婚姻費用算定表というツールで迅速に定めています。ネットでも確認できますので参照して下さい。簡単に言えば、お互いの年収(額面)と子どもの数・年齢に応じて決まります。ベースとなる年収は昨年度の源泉徴収票などをもとに決めますが、収入にばらつきがあるときは3年分の平均を取るとか、年度の途中で就職したときは月収×12+ボーナスで計算するとか、単一の方法ではありません。

 一度取り決めた養育費は、年収の大幅な増減、扶養家族の増加など理由がある場合しか変更できません。厳密には、増額や減額を求めて調停を起こすことは出来ますが、相手が応じなければそれまでです。また、養育費は急病や進学などに伴う諸費用をカバーしていません。そうした費用は事前に取り決めすることが難しいため、「協議する」という程度の合意しか出来ない場合が多いでしょう。養育費の支払期限は、子が20歳になる月までとする例が多いですが、大学進学が予想できるときは22歳までとするなど、アレンジすることも考えられます。

何を準備すれば良い?

 源泉徴収票(給与所得者)、確定申告書控え(自営)または(非)課税証明書(役場で入手)、転職したばかりなら給与明細も可

離婚するときに取り決めなかった!どうしたら?

  今からでも遅くないので,家裁の調停で養育費を請求します。通常、申立をした月からの支払になり、それ以前の養育費をまとめて回収することはあまり期待できません。また、将来分を一括して払えというのも、養育費が月々の生活費であることと反するため行われません。調停で話がまとまらない場合は、審判という手続に移行します。審判は話し合いではなく、主張と証拠を元に裁判官が判断を下す非公開の手続です。

支払が滞ったら?

 合意書があるときは訴訟を、公正証書になっていれば給与や預金口座の差押えを検討します。調停や審判で額が決定されている場合、裁判所から履行勧告をしてもらうことができますが、強制力が無いため効果は今ひとつでしょう。ただちに強制執行をすることを検討しましょう。

 

3 面会交流

 子どもと、子どもを監護していない親(非監護親)との面会に関する取り決めです。近時の家庭裁判所は原則的に実施しようとしています。

 面会について両親の対立が無く、子どももある程度成長している場合は、細かい取り決めは不要なこともあります。問題になるのは監護している親(監護親)が会わせたくないと考えているときです。このような場合、「月1回程度 〇時間」とアバウトに定めることもあれば、「毎月第3土曜日 何時から何時まで どこどこで」というように厳密に取り決めることもあります。また、年に1回以上、宿泊を伴う面会をルール化することもあります。

 親同士の不信感が強く、子どもも自分で非監護親を訪ねられるほど成長していないときは、第三者機関を伴って面会したり、家庭裁判所の一室で試験的に面会したり、手紙や写真のやり取りから始めるといった方法も考えられます。どんな方法であれ、中心になるのは「何が子どものためになるのか」という発想であることは変わりません。親権を決めるときと同じく、家裁調査官が調査を行うこともあります。

 最初に書いたように、面会交流は原則として実施する流れを作られてしまいますが、虐待やDVなどで面会の実施が不適当なときは毅然と主張し、子どもやあなた自身を守らなくてはなりません。調停委員はそれでも面会交流を実施しようとするかもしれませんが、安易に応じてはいけません。

配偶者が子どもを連れて出て行ったとき

 別居に際して片方の親が子どもを連れて行くことは珍しくありません。残された親としては、親権を争わないまでも子どもに会いたいと思うことは当然です。こういうときは、離婚調停の中で面会交流について話し合っても良いですし、面会交流のみを目的とした調停を申し立てても良いでしょう。特に配偶者がちゃんとコミュニケーションを取ろうとしない人の場合、協議で解決することは困難ですから、調停の中でルール作りを目指した方がベターです。調停がまとまらないときは審判に移行し、裁判官が最終的にルールを決定します。

約束通りに面会交流が行われないときは

 相手の不協力による場合,間接強制の申立をすることが考えられます。簡単に言えば、「約束違反、1回毎にいくら支払え」という形でペナルティを課すものです。これを行うには、面会交流のルールが詳細に定められていることが必要です。単に、「子の福祉を尊重して、月1回程度」面会交流をする、という程度の定めでは不可能です。

 また、間接強制は金銭の支払いを命じるだけで、会わせること自体を強制させるものではありません。ここまで来るのはよほど対立の強い関係ですから、面会交流が実現しない可能性も覚悟する必要があります。円滑な実施には、両親の協力が不可欠なのです。なお、実施を命じられたにもかかわらず相手の不協力で実現しなかった場合は、慰謝料請求が認められることがあります。

4 財産分与

 夫婦の共有財産を離婚に際して分割する手続です。金銭の取り決めに関する大きな柱といっていいでしょう。

特有財産と共有財産

 夫・妻が婚前から持っている財産や、親から贈与・相続を受けた財産は「特有財産」として単独所有になります。離婚に際して分ける必要はありません。

 これ以外の婚姻後に取得した財産(自宅、預貯金、車、株、保険の解約金etc…)は、どちらの名義であれ共有財産と見ても差し支えありません。財産分与の対象は、この共有財産です。

原則は2分の1ずつ

 共有財産をわけるときの割合は、原則2分の1とするのが実務です(2分の1ルール)。言い換えると、財産形成に対して2人の寄与(貢献)が等しいと見る、ということです。そうではない=自分の方が寄与が大きい(相手の寄与が小さい)というときは、その事情を明らかにしなければなりません。たとえば、給料から積み立てた金を投資に充てたところ、本人の能力で大きく利益がでたといった場合は寄与を主張できる可能性があります。ほかに、先例では、開業医が休日も働きづめで事業収入を大きく得た例で、医師である夫の寄与を半分超と認めたものがありますが、一般の給与所得者の場合は残業していてもなかなか2分の1を超える寄与は認められないでしょう。

負債は?

 分与する財産は、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた分です。ですのでマイナスが超過すれば受け取れるものもなくなってしまいます。その意味で、借金の存在はちゃんと考慮されるのですが、相手に負債を負担させることは同意が無いと困難です。また、そもそも夫婦間で借金の負担者を決めても債権者(貸し主等)には与り知らぬ話なので、「あいつに請求してくれ」とは言えないことにも注意が必要です。ただし、夫婦の間で負担する者を決めたときは、その者に対して最終的に請求できます。

何をどうやって分ける?価格はどう決める?準備するものは?

 分与の対象になる財産毎に見ていきましょう。

1)不動産(自宅)

 現在の価値をローンが上回っているとき(オーバーローン)は、売却してもお金を受け取れません。こういうときはローンの負担についても協議した方が良いでしょう。

 不動産の価値は固定資産評価証明書(役場で取得)、国税庁の路線価図(ネットで検索可)、業者の査定、鑑定といった方法で明らかにします。固定資産評価額は時価の7割程度、路線価は8割程度とされますので、これらによる評価は手軽ですが安価になります。査定は業者によって価格が変わるので、複数の査定を取り平均値を求めるといった方法が考えられます。鑑定は不動産鑑定士に依頼する必要があり、正確ですが時間も費用も掛かります。

 ローンがあるときはローン残高証明書(金融機関で入手)があると良いです。支払予定表でも代替できるでしょう。

 頭金を特有財産からだしたときは、そのぶんを寄与度として考慮することが出来ます。よく、親から送られたお金を頭金としたときに、これが自分に贈与された特有財産だという主張と、夫婦双方に贈られたものだから共有だという主張がぶつかることがあります。これは贈った側の意識がどうであったかも考え結論を出すことになります。

自分が離婚後に住みたいときは?

 家は生活の本拠地ですので、預金のように単純に2分割すればいいというものではありません。売却しない場合は夫婦のどちらかが住み続けることが多いでしょう。自宅の名義・ローン債務者が共に夫で、妻が居住希望と仮定しましょう。このとき、

 ① 夫がローンを払い続け、妻が住む 

 ② 妻が借り換えローンを払う、夫は債務者から脱ける

 ③ 妻がローンを支払うが、夫はローン債務者のまま

という形が大まかには考えられます。話を単純にするため、家の名義や固定資産税は脇に置いておきましょう。

まず、①ですが、相手の経済力や性格を見極め、ちゃんと払い続けるのかどうか考えなくてはなりません。支払が滞れば抵当権が実行され、家が他人の手に渡りますから、そのときは出て行かねばなりません。特に子どもがいない場合、別れた配偶者だけのためにローンを払い続ける人はそうそういないことに注意しましょう。離婚後1、2年で支払を止めたケースはよく目にします(当サイトの解決事例を参照して下さい)。子どもがいる場合、養育費や慰謝料の代わりに払ってもらうという選択はありますが、抱えるリスクは同様です。

次に、②ですが、借り換えを行うには金融機関が融資してくれないといけませんので、妻自身の資力が問われます。この点をクリアできれば不払いのリスクに怯えずに済みますね。

そして③ですが、妻自身がローンを支払うので不払いのリスクはありませんが、夫に送ったお金がちゃんと金融機関に引き落とされていないと金融機関に対しては不払いになってしまいます。夫への不信が強い場合は慎重になったほうがいいかもしれませんね。

住まない家の保証人になっているときは?

 逆に、家に住むつもりがなくローンも負担していなければいいのですが、自分が連帯保証している場合は厄介です。ローン債務が(主債務)が残る限り連帯保証人の責任も消えないからです。保証契約は金融機関と保証人の問題なので、配偶者の意思でどうにかできる問題ではありません。売却して代価を返済に充てるとか、金融機関と交渉し、代わりの保証人を見つけて自分は保証を脱けるといった処理を考えることになるでしょう。

2)預貯金

 夫婦で形成した預貯金は分与の対象です。婚前から持っている口座を婚姻中も使っていたときは、婚姻時の残高を差し引くことも考えられますが、生活用の口座として頻繁な入出金があったときは婚前と区別することは必要的ではないでしょう。分割するのは、別居時または離婚時の残高です。記帳されていなければ残高証明書又は取引明細書を金融機関に発行してもらいます。

 離婚を考え出した時点では、最低限、どの金融機関のどの支店に口座があるのかを知っておきましょう。もちろん、通帳のコピーまであれば文句なしです。

3)車

 ローンを考慮する必要があるのは不動産と同じです。夫婦で1台ずつ使っていたような場合は、清算せずそれぞれ持って行く程度の処理でもいいでしょう。

 車の価格は中古車市場の価格を参照します。離婚を考えた時点では、車検証のコピーがあるといいでしょう。

4)保険

 掛け捨ての保険は資産性が無いため、分与しません。解約返戻金の定めがあるものを分与対象にします。別居又は離婚時の返戻金額が対象です。保険証券を参照しましょう。特定の時点の解約金額は、保険会社に問い合わせれば判ります。

子どもの学資保険は?

 親権を得た親からすると、学資保険は将来のために残しておきたいでしょう。学資保険の扱いは別途協議し、解約せずにおくことは可能です。保険金をどちらが支払うか、契約名義の変更をするかなども併せて検討します。満期になる頃に別れた相手と連絡が取れるかも判らない場合は、契約名義を自分にうつしたほうが無難でしょう。

5)株式

 直近の株価で評価し、分与の対象にします。本人の能力によって資産形成がされたときは寄与度が変更されることもあり得ます。

 離婚を考えた段階では証券口座の情報や、最低限、銘柄を知っておきたいですね。

6)退職給付

 退職給付(退職金)は、そもそも分与の対象にするのかが問題になり得ます。少なくとも、10年以上後に定年の場合、離婚時点に存在する財産として考えられるのか、という疑問があり、数年内に退職という場合に分与対象とするのが普通でしょう。熟年離婚を考えているなら、退職間近まで待つのも手かもしれませんね。実際に計算するときは、別居時又は離婚時に自己都合退職したと仮定するのが一つの考え方ですが、これに限られません。

退職給付の内、夫婦で築いたと言えるのは、勤続期間を同居期間で割った年数です。この数字に退職金額を掛けたものが共有財産となります。退職金規程を参照する必要がありますが、相手の分は相手の協力を得ないと入手できないでしょう。

7)その他

 滞納している婚姻費用、預金の使い込みなどを考慮することも出来ます。

 

協議離婚のとき、財産分与をしなかった!

こういう場合であっても、離婚から2年以内であれば家庭裁判所で手続が取れます。

 

5 慰謝料

 慰謝料は、離婚の原因を作った側、つまり離婚について主たる責任を負う者が支払います。離婚を余儀なくさせたことは相手に対する不法行為だと考え、それに対する精神的苦痛を慰謝させるものです。

 ですので、慰謝料を請求できるのは相手に責任がある場合です。俗に言う性格の不一致などは、「どっちもどっち」ですので、慰謝料を請求する権利がありません

どういう場合に請求できる?

不貞・不貞に至らないが過度に親密な交際をした・悪意の遺棄・暴力・暴言・浪費・セックスレス(性的不能含む)・犯罪を犯したetc…

いくらぐらい取れる?

不貞の場合、離婚するなら200~300万円の範囲が一般的です。金額の算定要素としては、不貞期間の長さ、相手の妊娠の有無、現在の相手との交際状況、発覚後の交際の継続、夫婦関係の在り方、主導的役割をどちらが果たしたかなどが考えられます。

その他の場合は一概に言えませんが、100万前後から300万の範囲で見ておくと大きく外れないと思われます。結局の所、個別に相手の責任の重さ、自分の苦痛の大きさを示す資料から妥当な額を検討するしかありません。300万を超える支払を命じた例も、もちろんあります。

不貞の調査のための探偵費用を請求する例が見られますが、全額はなかなか難しいでしょう。調査を行うことの必要性、金額の妥当性などが問われます。

どうやって回収する?

 調停で、裁判で、いくら払うか決まっても、それだけでは単なる紙切れです。実際に回収できるかは相手の経済力と、財産の所在を把握しているかにかかっています。浪費で家庭が崩壊しても、そのような相手からは現実の回収を望めないことが多いでしょう。もちろん、経済力が回復したときに備えて判決などで支払義務を明らかにしておくことは有益ですが。

 ちなみに、時々訊かれることですが、自分に経済力が無くても、判決で決まる慰謝料の額には影響しません。回収されるかどうかで違いがでるだけです。

準備するものは?

 離婚原因の立証と密接に関わります。次のような資料が考えられるでしょう。

1)不貞の場合

どんな証拠?

 不貞は、配偶者以外の異性と自由な意思に基づいて行う性交渉です。性交渉があったことが直接判る証拠(行為の場面を撮影した写真、動画など。ただし顔が写っていないと証拠としての価値は弱くなります)があれば一番ですが、多くはそれを推認させる証拠(間接証拠)を積み上げることになるでしょう。ラブホテルの出入り、ラブホテルの領収証、ラインやメールでの親密なやり取り、相手の自宅への出入り写真(夜に入って朝出てきたものが価値を持つでしょう)などが挙げられます。一方、ビジネスホテルの出入りとなるとラブホテルよりも証拠価値は下がります。また、腕を組んで歩いている写真では親密なことは判りますが、性交渉を推認する力は弱くなります。配偶者の不貞を認める言葉も証拠になりますが、いつ・どこで・誰と・何したかまで明らかにさせましょう。

 同性愛は不貞そのものではありませんが、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し得ます。証拠集めは不貞と同じように考えます。

どう集める?

 興信所(探偵)、配偶者の携帯電話、PC、財布、車(カーセックスの場合、避妊具が捨ててあるかもしれません)など。

2)暴力・暴言の場合

どんな証拠?

暴力:診断書、診療録(カルテ)、傷の写真、警察の相談記録、判決書など。刑事事件化している場合、事件記録が有力な証拠です。

暴言:録音が一番です。暴言があってすぐに友人に送ったメール、その日のうちに書いた日記も証拠にはなりますが、本人の言葉ですので証拠としての価値は下がり          ます。暴言に限らず、日記は手軽に作れる「証拠」として書く方が少なくありませんが、本人の言葉は「主張」と大差ないため、信用性は要注意なのです。せめて、その日のうちに起こったことを書き、「評価」を交えず「事実」を記載しましょう(「死ねといわれた」は事実の記載ですが「暴言を吐かれた」は評価です)。

どう集める?

 病院で請求,警察の相談記録は情報開示請求で入手、刑事事件記録は利害関係人として閲覧謄写。

3)その他

性病に罹患した診断書、風俗店の会員証、浪費を示す領収証・家計簿・預貯金の取引明細・クレジットカード明細・消費者金融の督促状・破産開始決定書……事案に応じて想定できる証拠は変わります。証拠集めに関しても専門家と相談しつつ進めていくと間違いがありません。

早く離婚したくて、慰謝料の取り決めをしなかった!

離婚から3年以内であれば慰謝料請求が可能です。離婚の原因に至らない程度(1発だけ平手打ちをしたが、それ以外の暴力はなかったなど)のときは、その行為から3年以内です。

 

6 年金分割

 働いていなかった配偶者の老後のため、厚生年金等の年金額計算するベースとなる、標準報酬等を分割する制度です。大雑把に言うと、婚姻中働いていなくても、配偶者の年金の支払い実績を分けてもらい(自分も払ってきたこととし)、老後に厚生年金等の支給を受けられるようにするものです。分割割合は原則0.5、つまり半分ずつ分けることになります。

 時々誤解されている方がいますが、年金を半分に分けるのではありません。分けるのは年金を納めたという実績です。

自営業者は注意!

 年金分割の対象は厚生年金、共済年金で基礎年金を含みませんので、基礎年金しか加入していない自営業者の場合、分割を受けられません。

準備するものは?

 年金分割のための情報通知書(年金事務所で入手)、公務員の場合は共済組合に問い合わせ

どうやってする?

 合意で分割することも出来ますが、必ず書面にし、夫婦で年金事務所に赴きます。離婚調停で行う場合は、調停の最後に作る「調書」を年金事務所に持参します。離婚時に年金分割をしなかった場合は、離婚から2年以内に合意して、または家庭裁判所で手続が取れます。

 

ご自分に当てはまるケースはありましたでしょうか。人生の再出発を図る上で、離婚する際は正しい知識を持ってちゃんと準備をしなくてはなりません。あなたの人生のリスタートのお手伝いになれば幸いです。

投稿者: 弁護士石井康晶

2016.09.26更新

今や離婚は珍しい話ではなくなりました。熟年離婚という言葉が膾炙して久しい感がありますが、若年夫婦の離婚も最近仕事の中でよく目にするようになりました。離婚は人生の再出発であり、セカンドライフに向けて好スタートを切るには正しい知識を持ってきちんと別れなければなりません。離婚に伴って考えること、決めることは多くありますが、棚上げすることで別れた後も元配偶者とのトラブルの芽が残ってしまいます。

ここでは離婚を考えたときに注意することをお話ししていきます。

 

離婚の方法は?

我が国で婚姻した夫婦が離婚するには、次の3種の手続いずれかを取る必要があります。

1 協議離婚

2 調停離婚

3 裁判離婚

 

1 協議離婚

 協議離婚は、夫婦で離婚届を作成し役場に届け出ることで成立します。もっとも簡単な方法による離婚で、多くの離婚は協議離婚でなされています。この方法は、時間も費用も掛からないというのが最大のメリットですが、簡単なだけに財産分与など重要な取り決めを離婚時にせず、棚上げしてしまうリスクもあります。財産分与は離婚から2年以内、離婚に伴う慰謝料請求は3年以内に行うことは可能ですが、離婚に伴う問題を先送りにすると、別れた後も元配偶者とのトラブルが起きることになり、一括した解決が遠ざかります。協議離婚をする場合でも、離婚に際して決めた方が良いことは何かを、ちゃんと専門家に相談した上で取り決めるのが良いでしょう。その他のメリットとしては、合意できればいいので裁判のような離婚事由が必要ないことも挙げられるでしょう。なお、離婚に際して約束事をするときは必ず書面化し、可能なら公正証書にしましょう。

 協議離婚は相手との協議、つまり話し合いですので、話し合いで合意できなければやりようがありません。これは離婚するかどうかという点だけでなく、子どもの親権者をどちらとするかで対立がある場合も同じで、親権者が決まらないことには離婚もできません。こういうときは次の調停離婚で解決を目指すことになります。なお、財産分与や慰謝料で争いがあっても離婚は出来ますが、一括解決が望ましいことから、この場合も調停を利用する方が良いでしょう。

2 調停離婚

 家庭裁判所での話し合いを経て、合意できたときに調停調書を作成し、合意できた日に離婚が成立します。調書の正謄本を持参して役場に行き、離婚届と一緒に提出すれば戸籍上も夫婦でなくなります(離婚届に配偶者の署名は必要ありません)。調停を行う家庭裁判所は、相手の住所を管轄する裁判所ですので、別居中の夫婦では場合によってはかなりの遠方になってしまいます。遠方での調停に支障があるときは、電話会議システムの利用をしたり、自庁処理といって管轄を持たない裁判所に調停を申し立てそこで処理してもらうようにするといった方法が考えられます。調停では2人の調停委員(通常男女1名ずつ)と話をし、調停委員を通じて自分の考えを相手に伝え、相手の考えを自分に伝えてもらうことになります。調停のメリットは、協議離婚と同じく話し合いによる合意を目指す手続であることから、協議離婚のように柔軟に取り決めが出来ること、第三者による説得などの介入があり、1対1の話し合いより円滑に進みやすいことが挙げられるでしょう。しかし、あくまで話し合いですので、相手が自分の要望を断固飲まなければ終わってしまいます(逆に、自分も相手の要望を撥ね付けることが出来ます)。ここが調停の限界で、不貞など法定の離婚事由がない場合に相手が離婚を拒否すれば、今すぐの離婚を断念しなくてはならないこともあります。また、財産の話などになると必要書類も多くなり、本人で対応するのは大変になってきます。弁護士の助力の必要性は、協議離婚よりもずっと高いでしょう。調停委員にも個性があり、時々中立性を疑うような言動を目にすることもあります。あなたの調停を担当する委員がそのような人間であれば、損害を被る前に弁護士を代理人として付けて対処するべきです。

 大体のスケジュール感覚ですが、申立⇒第一回期日まで1ヶ月程度、その後の流れは争いになっているポイントによってまちまちですが、大体1ヶ月毎に花井愛を行い,トータル数ヶ月から1年くらいの範囲で考えておくと良いでしょう。お互いに弁護士が付いていれば連絡がスムーズなので、本人同士よりも早く解決できる見込みが上がります。

3 裁判離婚

 証拠を元に法律で定められた離婚の原因があることを証明することで離婚の判決が下ります。判決が確定すれば晴れて離婚したことになり、判決書等を持参して役場に行けば戸籍にも反映させることが出来ます。最大のメリットは、離婚するかしないか白黒つけられることです。デメリットは、証拠と法律に基づく判断で柔軟性に欠けること、時間と費用がかかることです。我が国は裁判の前に調停を経ることを原則としていますので、裁判まで来るということは夫婦の話し合いができず、調停でも折り合いが付かないということにほかなりません。ですから調停から数えると相当な期間がかかります。もっとも、裁判の途中でも和解という形で話し合いを持つことは可能です。

 我が国で法定されている離婚の原因は次のとおりです(民法770条1項)。

夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することが出来る。

一 配偶者に不貞な行為があったとき

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき

三 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき

四 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき

五 その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき

不貞は代表的な離婚事由です。配偶者以外の異性と自由な意思に基づいて性交渉を持つことを言います。同性同士の場合や性交渉に至らない親密な接触があったときは5号「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」を主張することになるでしょう。証拠は、行為時の写真や動画といった直接証拠があれば別ですが、多くは間接証拠をつみあげて立証していくことになります。

悪意の遺棄は別居を一方的に開始して生活費も入れず,配偶者の生活を困窮に置く場合がこれに当たることがあります。もっとも程度問題であり、単に別居して生活費を十分送らないくらいでは悪意の遺棄にならないことがあります。

その他婚姻を継続しがたい重大な事由としては、暴力・暴言、長期間の別居が典型ですが、ほかにも配偶者の宗教活動、義理の両親との問題(配偶者が関わっていることが必要でしょう)、刑事事件を起こし有罪になった等々、非定型な事由もあります。結局の所、客観的に見て修復が不可能と言える程度に関係が壊れていることを明らかにしていくことになります。

以上の離婚事由は法律概念であり、どんな証拠に基づいてどんな主張を組み立てるかは、本人のみで行うことは難しいでしょう。もっとも弁護士の助力を必要とするのが裁判離婚です。スケジュール感覚ですが、半年から1年程度、控訴・上告と進めば2~3年は見ることになるでしょう。

 

離婚を考えたら~自分は何故離婚したいのか、それは法定の離婚事由に当たるのか考える~

 離婚を考えるからには、それなりの事情があるのが普通でしょう。その理由を突き詰め、さらに相手が離婚を拒否した場合にも離婚できるのか=法定の離婚事由が備わっているかを考えてみることは有益です。今、そしてこれから取る行動が変わってくる可能性があります。

1 不貞、悪意の遺棄など770条1項5号以外の理由のとき

 法的判断と証拠集めが必要です。夫が他の女性とデートをすれば「浮気」かもしれませんが、法律上の「不貞」ではありません。家を出て行かれ十分な生活費を振り込まないからといって「悪意の遺棄」とは限りません。離婚事由はいずれも法律概念ですので、専門家の判断を仰ぐのが先決です。次に、仮に「不貞」に当たるとしても、それを立証できる証拠がないと相手に否定されれば勝てません。証拠集めが不可欠です。特に訴訟では証拠を元に事実を認定しますので、証拠が無ければ訴訟自体断念することになりかねません。また、調停でも優位に進めないでしょう。また、法律相談に見える多くの方が、「証拠がある」と言いますが、実際に見てみると不貞の証拠にはならないことがままあります。せいぜい親密さを推認できる程度(これは場合によっては5号に該当しますが)であるなど、当事者の証拠評価は緩いというのが正直なところです。「証拠」があっても専門家の目に触れさせる機会を持つべきです。「証拠」から離婚事由を立証できないと判断されれば、訴訟まで踏み切ることは難しくなります。調停で合意を目指し、合意に達しないときは証拠確保の機会を待つか、別居を開始することになるでしょう。

2 5号事由のとき

 婚姻関係が破綻しているかどうかを判断しなくてはなりません。長期間の別居が先行している場合、婚姻期間や同居期間と対比しつつ比較的容易に判断できます。しかし、その他の理由による場合は破綻の有無を判断する必要があり、また、相手方が争った場合に備えてやはり証拠が必要です。基本的には不貞などの場合と同じように考えれば良いのですが、証拠に基づいて判断しても破綻しているとはいえない場合は、別居を先行させます。よく言われるのが家庭内別居による破綻ですが、同居している限り簡単に破綻は認められません。

3 性格の不一致のとき

 俗に言う性格の不一致は、それだけでは離婚原因になりません。相手が嫌といえば離婚できないことになります。自分では相手のモラルハラスメントのせいで破綻したと思っていても、第三者から見れば性格の不一致と評価されることもあります。何を「性格の不一致」というかは一つの問題ですが、「相手に主たる責任が無い場合≑どっちもどっち」の場合は単なる不一致の問題と見て良いと思います。このときは相手が離婚を拒否するとただちには離婚できませんので、別居を開始して破綻に持って行くことになります。ここは5号事由と同じですが、証拠があっても裁判では離婚が認められない点が違います。

4 あなた自身が不貞などをしたとき

 この場合、あなたは離婚原因を作った当事者として、「有責配偶者」と呼ばれます。合意できればもちろん離婚可能ですが、そうでない場合、相当長期の別居を経ないことには易々と離婚請求が認められることはありません。具体的に何年の別居が必要になるかはケースバイケースですが、短くても7年程度、長ければ10年以上が必要でしょう。あなたがどうしても離婚を望み、配偶者が離婚を拒否しているなら、ともかく別居を開始しなくてはなりません。

 上記はおおまかな分類(一般的にこのように分けているわけではありません)ですが、1・2の場合は証拠次第で速やかに離婚に向けた行動を起こすことが出来、相手が拒否しても裁判上の決着を付けることが考えられます。3・4は同居している限り強制的な離婚は困難です。協議離婚できなければ別居を先行させるのが良いでしょう。肝心なことは、自分がどのタイプに属するのかを知り、適切な行動を取ることです。

 次回以降は離婚に伴う様々な問題や細かい準備について扱います。

投稿者: 弁護士石井康晶

2016.02.29更新

コラムを掲載していきます。
宜しくお願いいたします。

投稿者: 弁護士石井康晶

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